「花影」

しばらく前に大岡昇平原作、川島雄三監督の映画「花影」を見てひどく感心したことがあった。それについて思うところを掲示板Pt.2に書いたりもしたが、いまは流れてそれはなく、ただローカルにはあるのでそれを再録して以下に。
川島雄三の「花影」観たんだけど、なんだろうな、この濃さは。話自体は俗っぽい銀座ホステスの男関係ってだけで、なんつうことないんだけどさ。見応えがある。 気のついたこと、いくつか。照明が強く明るく、その分、影が濃く映るような設計になっている。会話の最中に道路や小学校からの子供たちの声などのノイズが入るよう演出されている。あれはワザとだ。川島雄三だもん。俯瞰、てほどじゃないが、若干高いところから人物を捉えるショットを多用している。ふたりで話している際に手前の人物の後ろ頭をずっと映したまま会話させていた。まあそんなコチャコチャしたことはともかく、有島一郎が出てるんだけどさ、おれはそれがうれしいよ。有島一郎大好き。更にパンフォーカスの多用とか。で、そんな事はともかく主演の池内淳子を始め、さきほどの有島一郎池部良山岡久乃三橋達也佐野周二などの助演陣もひとりひとり素晴らしければ、睡眠薬の入った青い壜、池内の着物、彼女のアパートの暖簾、カーテン、皿小鉢、部屋の様子(昔だから銀座のホステスでも木造アパートに住んでいる)、バーの内装、その他のホステスの配置、バーのスツール、バーテンの性格付け、描写、最期の仕度をする池内の動作、いくら言っても言い足りないくらいに総てがよいのだった。 時折あるロケ、そこがどこなんだかすごく気になる。昔の東京って、至極惹かれる。佐野周二の家、小川が裏にあるんだけど、あれ、どこなんだろう?有島一郎の道路を望む家、あれもどこなんだろう?そして最期の桜はやはり青山墓地なんだろうか?なんだかすごくいい映画を観たよ。去年末に録画したきりだったが、つい観て、実によかった。よかった。けどよい場合は百万言費やしても、結局映画そのものにはならない。そんなことは蓮實重彦金井美恵子も言ってなかったか。 61年の映画で、戦後15年ほど経っていて、主人公のホステスにももちろん戦争の影が落ちている。大岡昇平の原作がどんななんだかは知らないが、しかし実に上手いもんだ。あ。くだらない言い方しちゃった。とにかく巧みなんだよ、人物描写が話の進め具合が。それは言いたかった。銀座の文壇バーの女給の話だなんて、おおよそ縁のない世界で、関心も持てないようなものの筈なのになぜにこうも魅了されるのか。気づくと感情移入しているのか。普遍性の現出。それは素晴らしい作品の宿命。