國家は私達から、乙女の夢まで、取上げてしまふのでせうか。

センセイの鞄

やはり久世光彦とはおれは相性がわるい。
これ、ロケが多かったが、久世光彦といえば大のロケ嫌いなのでそこらへんどうなのか、
ロケシーンの度に気になってしまいそわそわしちゃった。
キョンキョンのワンルームの部屋がなんとも実感がなくて、殺風景でさえなく、
それもまた見ててそわそわしてしまった。
そういう部屋に住んでる女性、ってんでもなく、ただなんか間違って家具調度誂(あつら)えて
しかもなおスッカラカン、よって実感のないセットが半端なまま、みたいに見えた。
白いもや、煙が始終漂っていて、それはいいんだが、始めの方、飲み屋の入り口近くと
何度か出て来る中古自動車が積みあがった場所の2箇所ではなぜかその白い煙が
ある箇所から出てくるのがハッキリと映ってるんだが、あれは一体どういうことだったんだろう?
メタとかそういうの?意図不明。
竹中直人がちょっとだけ坊主のカッコして出て来るんで思わず「天花」かと
思ってしまったのはおれだけじゃないだろうぜ。
四谷シモンがちょい役で顔を出すが、なんか久し振りのドラマ出演だろうに勿体無かった。
演出の不味さばかりが気になって、お話の方にはさっぱり入っていけなかった。
キョンキョンは「すいか」や「マンハッタンラブストーリー」と同じ30歳代後半の独身女性の役
だったが、赤羽ちゃんや馬場ちゃんのことを思うと「センセイの鞄」のこの彼女はストーリー以前に
部屋のセットひとつとっても演出が外しっぱなしで、しっくりと収まるところがどこにもなく、
見てるこちらはただ話の終わるのを待っているばかりだった。
出演者すべて(ちょい出の、というかカメオ出演的な人たちも含む)の演技、エピソードのすべて、が
わざとらしく、とってつけたようだった。
わるいのはもちろんキョンキョンじゃないゼ。
脚本のせいでも原作のせいでも役者のせいでもない。ただただ久世光彦一人のせいだ。
やりようによってはもっと切なく感じられる話にもなるだろうに。
久世光彦、「寺内貫太郎一家」とか「ムー」とかは子供の頃に見たきりで評価とかはしようがないし、
悪魔のようなあいつ」はDVDで見て、話自体がおもしろいのとジュリーや藤竜也の魅力、
時代の色なんかがあるのと、やはり懐かしいし、久世光彦の演出がヘンなのが却って味を出してて、
それはそれでおもしろかったりで結構よかったが、でも基本的に久世演出って馴染めない。
積極的にいいとかおもしろいとか思えない。どうせならもっと違う風に演出した方が
よくなるんじゃないかって思えてしまう。
最近だと殆ど小説なんか読まない昨今、たまたま読んで大好きだったチョーおもしろい
佐藤愛子の「血脈」のドラマ化ってのがあったが、あれも久世光彦の演出のせいでまったくの台無し、
原作の魅力の10分の1もありゃしなかった。まあ大体2時間程度に収まる話じゃないんだけどさ。
それでもさあ。なんかなあ。だって「血脈」ってムチャクチャおもしろいんだぜ。
いくらなんでも勿体無かったよ。あれじゃ。
誰か連続ドラマにして、やってくんねえかなあ。
ちゃんとした見応えのあるドラマになってるのが見てえぜ。「血脈」。