國家は私達から、乙女の夢まで、取上げてしまふのでせうか。

映画鑑賞

「晩菊」(監督:成瀬巳喜男)と「眠狂四郎無頼剣」(監督:三隅研次)を観る。
(最近は観た映画、いちいち書いてるなあ。しかも感想付き。ごくろうさまなことだ。
こういうのは一度やっちゃうとな。つい続いてしまう。止められない。ま、備忘録にもなるし、
思いついたこと書いてもおきたくもあるので仕方ない。そのうち止めて、
映画観る度、タイトル挙げたり、まして感想書いたりなんてことはたまににしたい。)
「晩菊」は昔(20年ぐらい前)観たけど、なにも憶えてない。そういう映画って結構ある。
あと、なんか観たような観てないようなのとか。観たのまるきり忘れてる場合もある。
(「楊貴妃」なんかも観たことはあるけど、三鷹オスカーだ、中身はぜんぜん憶えてなかった。)
まあ「晩菊」の場合、話が地味なのでそういう意味では尚更忘れやすい。
心理の微妙な綾を描いていて、派手な事件もないし、展開も地味だ。
昔は成瀬巳喜男といって映画館でやってるのって大体決まってて、「めし」「浮雲」「山の音」
「流れる」くらいか。ここらへんを順繰りにやってた。どう考えても20年前よりも遥かに沢山の
作品を観ることが出来る。それは小津安二郎にしたって事情はいっしょだったし、他の監督でもそうで、
ヒッチコックだっておれが学生の時にようやく未亡人だかの許可が下りて「めまい」「ロープ」「裏窓」
「ハリーの災難」が観られるようになった筈だ。
「めまい」と「裏窓」が観れなかったんだよ!そこんとこわかって!
(「海外特派員」は蓮實重彦監修のビデオシリーズ、リュミエールなんとかでようやく。80年代後半か。
当時ビデオ屋にいたおれはそれとフリッツ・ラングの「暗黒街の弾痕」を自分が観るために仕入れたりしてた。
あのシリーズはパッケージも洒落てたし、フィルムの状態、字幕も結構よかったと思う。
映画の選択は当然。そういったとこはね。さすがに蓮實重彦ですもん。)
(この手のやつ、IVCから出てるけど、そちらはフィルムはぼやけてるし、字幕はひどいし、パッケージは
ださいし、なんとかならんか。つうか、かつてのリュミエールのやつ、DVDで復活して欲しい。)
今は確かに名画座ってのはなくなっちゃったけど、どう考えても監督を問わず、観られる作品てのは
圧倒的に増えた。いつだったっけ、ルノワールの「ゲームの規則」がようやく日本で公開されて、
これまたおすぎがラジオでこの映画について喋ってたのをなんとなく憶えてる、それ以降だよな、
ルノワールの認識が日本で変っていったのは。だってそれまでは公開作品が殆どなくて、ルノワールといえば、
画家か喫茶店のことで、そうだ、蓮實重彦がやがてルノワールといえば父親の画家のそれじゃなく、
映画撮ってる息子の方を指すようになるだろうとかなんとかどっかに書いていたような、ええとそれで、
おれの中学高校時代くらいまで、その後「ゲームの規則」が公開されるまで、ルノワールといえば
これは絶対「大いなる幻影」のことで、それ以外にはかろうじて「河」、あとはなし、って感じだった。
名画といえば「大いなる幻影」ってのが決まりだった。あとロッセリーニといえば「無防備都市」、
ついで「戦火のかなた」、で、あとはなし、ってのがこれまた決まり。あとそうだ、デシーカの
「自転車泥棒」も名画ベストテンの定番だった。いまはだいぶんそこらへんの認識が変ったよなあ。
若い人はそういうむかしを知らんのだよなあ。いまならルノワールなんていったら、「黄金の馬車」とか
「ゲームの規則」だよな。例えば。時代は変るねえ。しみじみ。
さて「晩菊」だが、例によって相変わらず男は役立たずしか出てこないし、辛気臭いはなしで、
気が滅入りかねないようなあれだが、でも今回、ラスト、なんか明るい気がした。希望の光を感じた。
しばらく以前におれがひとり成瀬祭りをやってた時に観たのは総じて結末が暗澹たるものだったが、
今回はそうでなく、明るいように思えた。
あ。そうだ。「晩菊」、後半、上原謙杉村春子を訪ねてきて、彼女の家(うち)で飲むんだが、
そこに到っていきなり杉村春子のモノローグが出始める。ちょっとビックリした。だってそこまでは
そんなのないんだよ。なんで突然、ナレーションが。成瀬巳喜男ってそんなことするんだ、ってのも
あったし。あれかなあ、会社のえらいさんに、これじゃなんだかわからん、解説を入れろとかなんとか
言われちゃったのかなあ。どうなんだろ。誰のアイディア?監督本人のものなのかしら。
眠狂四郎無頼剣」、子供の頃に何本もこのシリーズはTVで観ているが、殆ど記憶もなく、
そういう映画をこうしてあらためて観るのも一興だ。これ、しかし、セリフがむずかしかったなあ。
「理の曲直を問わず」とか、ちょっと耳で聞いてるだけだとなに言ってるかわかんない場合が多く、
セリフの理解に耳をそばだてながら観ていた。三隅研次って機械類、仕掛けの類がもしかして好きなのかなあ。
(これには石油精製用の機械が出て来て、その図面と共に事件の中核を為す。)