國家は私達から、乙女の夢まで、取上げてしまふのでせうか。

レイクサイド マーダーケース

(これまた「・」のありやなしやでタイトルに迷う作品だ。)
青山真治って「Helpless」っきゃ観たことないんだよなぁ。
そんで「Helpless」はまあふつうかしらぐらいの感想で、それきりだったんだが、
ある時リリー・フランキーが「Helpless」について、いまどき頭のよわい、
小動物連れた妹、ってどうなのよ、みたいなこと書いているのを読んで以来、
ああまったくそのとおりだよなあ、アナクロもいいとこ、
それが味にでもなってんならともかく、あれじゃあなあ、と同感することしきり、
おれの中での青山真治評価はそれまでは特に感想もなかったのが一気に下落、
そんな経緯があったのでしたが、今度観てみたこの「レイクサイドマーダーケース」、
評価下落させて正解じゃん、でした。ひどいよ、これ。ほんと。
はるか17」を見て反省して欲しい。
おもしろいってのがどういうことか、人物を作り上げるってのが
どういうことか、メッセージを伝えるってのがどういうことか。
「Helpless」は「その男、凶暴につき」をパクっているので、頭の弱い妹が
そのまま出て来ているのだが、けどさあ、たけしさんはあの映画、そもそもが
偶然監督やることになっただけ、企画を後から引き受けただけ、脚本は既にあったわけで、
その旧態依然とした脚本を元に新しいものを想像してしまったのがまったくすごかったわけで、
そうして出来た映画をそのまんまやっちゃうってのはなあ、そりゃマネしたいのは当然だけど、
でも悲しいかな、結果は単に凡庸でしかなかったんだから、お立会い。カラオケかよ。
人のカラオケはべつに聞いててもおもしろかない。
まあ才能は努力じゃ補えないのでどうしようもないが。
例えば「血と骨」とは違う。あちらはほんとに才能のある人が作った、
しかし不出来をいくつも指摘できるような作品であって、「レイクサイド〜」はしかし、
ハナから大したことない人が作った、使えない映画でしかない。
ちなみにこの映画は薬師丸ひろ子が父(高倉健)と共に、愛人を作って家を出て行った母
(三田佳子)を機関銃片手に(もちろんセーラー服)自衛隊を率いて倒そうとするのを
同じ学園の超能力を持つ同級生に阻止されようとしたところを
探偵(松田優作)がやって来て結局うやむやにしてしまう、
そんなみんなの様子を前に役所広司がひとり芝居で解説をしてくれる、
そんなガイアの夜明けな映画です。
全員、リハーサルしてるみたい。演技が。読み合わせというか。
それまでずっとぼそぼそ喋ってた柄本明が最後の方になって、怒鳴る。ああ。
こういう最後にがなる映画はなあ。よくあるよなあ。ああ。
ピンク・フロイドぐらい聞いたことあるだろうに。青山真治
抑えに抑えて最後に爆発するってのはああいう風にやってこそ、だよ。
柄本明ストーンズのベロTシャツを着ている。これがまったく似合ってない。浮いてる。
といってそういうキャラにも見えない。
若い頃はストーンズ聞いて、いまはおじさんになって、みたいな。
柄本明ってだってぜんぜんロックとかそういう気配がしないんだもん。大体。
なのにそういう人にあのTシャツを着せちゃうってのはなあ。なんだかなあ。
というか、そもそもがこの映画、ファッションが総じてださい。
べつにみなが地味な野暮ったいカッコをしているのは受験生の親ってことだし、
設定としてもそういうもんかも知れないが、でもそういうことじゃない。
地味でなんてことないカッコでも、日常的な服、普段着、それもセンスない人の
それであっても、それでもなおかつ観ていて惹きつけられるようなカッコを
させるのが映画ってもんじゃねえか。アメリカのなんもない地方が舞台で、
地元のだっさい連中しか出て来ないような映画でも、彼らがたとえKマートの服を
着ていようが、映画だとふしぎと引きつけられるじゃないか。それがここにはない。
宇宙戦争」のトム・クルーズがファッショナブルだったか?そんなはずはない。
しかし彼のカッコは「リアル」だった。映画ならではの魅力があった。
まして「レイクサイド〜」では面接に際してのフォーマルな服装というのもある。
こういうのはふつうに見せ所として機能もするはずだ。
更に子供たちの合宿用のジャージ姿だって、なんかしら印象的にもなりうるはずだ。
それこそは鶴見辰悟や柄本明の普段着でさえ、もっとしっくり来る格好がぜったいにある。
そして薬師丸ひろ子
彼女にはこの映画のため、専属のコーディネーターがついており、
それが為、余人とは一線を画す服装になっているというのに、それがぜんぜん魅力的じゃない。
映えない。
更に役所広司の愛人のおねーちゃん。これまた服装がパッとしない。
まして要になるコート、これがぜんぜん魅力的じゃない。平凡。
つまらぬ衣装はつまらぬ意匠を呼ぶ。
いや逆かも。つまらぬ意匠がため、衣装も映えないのか。
いや、どっちもどっちか。
冒頭で役所の愛人の女性カメラマンが写真撮ってるんだけど、そこからして
いきなりださい。観てて困った。あれはもしかしてオシャレな雰囲気のつもりなのかしら。
そしてその場で気分わるそうな様子の役所広司
その2人をガイジンさんに置き換えると監督が撮りたかった画が想像できる。
でも結果は、ふつうにパッとしないだけ。
そうして出来上がった写真もちょっとどうかって感じ。
2時間ドラマとしても凡庸。そして特に最後の方のセリフ群がすべて耳障り。
わざとらしいだけ。といって下世話に落としてあるってんでもない。
これが2時間ドラマならば下世話なセリフで教訓を述べていても、ああそういうものかと
見ててカンに触ることもないが、こうして生真面目に四角張ってメッセージを
述べられてしまうと、もうどうでもよくなってくる。
生硬なのは時に喜びだが、この映画では旧態依然、てだけ。
画面がウスッペライんだもん。ずうっと。
画面がずっと青っぽいだけで、安い限り。
光がつまらん。味がない。ぜんぜん。人工的なだけ。
それが狙いでも結果がつまんなきゃどうしようもない。
舞台になる別荘もただキレイなだけ。掃除が行き届いてるだけ。
たぶんテーマに即して、わざとああいう風に書割り風に、舞台風にヨゴシのない
大道具小道具なのだろうが、でも結果は単に味がないってだけ。
ああいうのはその意匠の冷たさに居心地がわるくなるようなもんじゃなきゃ意味ないじゃん。
てか、そのレベルまで行けるのは稀なのはもちろん。
柄本明って、なんかどこで見てもいっつもおんなし。喋り方も雰囲気も。
そういや薬師丸ひろ子が今回ほぼウィスパー・ヴォイスで喋ってたんだけど、
安い役作りだよなあ。
もちろん彼女のせいじゃない。あたりまえだ。彼女をわるく云うやつは許さん。
青山真治って岩井俊二のことどう思ってんだろう?
才能は岩井俊二の方があるよなあ。世代ほぼいっしょだと(リリー・フランキーも)
気になるのが人情。
ああそうだ。役所広司だけ自由業で、服装もラフでヒゲ面だったんだけど、
それってさあ、いくらなんでもなあ。
とりあえず反体制っていうと原田芳雄が出てくる、みたいなお約束を思い出した。
それとも紋切り型っていうジョーク?違うよなあ、きっと。
役所だけ、お受験反対なセリフを言うのもなあ。なんだかなあ。