國家は私達から、乙女の夢まで、取上げてしまふのでせうか。

野ブタ。をプロデュース

奇跡はいつだって起きる。何度でも起きてしまう。
なんてことだろう。こうして奇跡を幾度も目の当たりに出来てしまうなんて。
今回は始めからひどく不穏な空気が漂い、怖かった。
でもそれは修二と彰、2人の蒼井への態度ですぐに潰(つい)え、
そう、「なんでもない」ことになってしまった。
つまらぬ脅しやそれに伴うことばは実体なんかあるものじゃなく、
まっとうな思いの前ではちゃちぃ、大したことのないものにあっという間に変じてしまう。
「野ブタ。パワーちゅうにゅう!」は今回は出ては来なかったが、それも道理、
あの野ブタの3本脚の人形から出たパワーは野ブタ。ひとりじゃない、
彼女のまわりの人間みんなに注入され、蒼井でさえ救ってしまったんだから。
そう、今回は全部が「野ブタ。パワーちゅうにゅう!」だった。
前回、野ブタ。は「みんなにしあわせになってもらいたい」と言っていた。
それは預言だった。願いは必ず通じるし、奇跡は平気で起きてしまう。
みんながしあわせになる。それは当然のことだ。
そうじゃなきゃたのしくないもん。だって。
蒼井が教室で顔を伏せうとうとし始めると、それは果たして誰なのかわからなくなり、
目が覚め、顔を上げるとそれは野ブタ。になっていた。
これだけでもびっくりした。
野ブタ。と蒼井は実はどこか似ていただなんて。
蒼井による、野ブタ。への、今までのは実はともだちのフリとの
告白の場にいあわせることになるのはなんとまり子だった。
そうしてそのあと野ブタ。は屋上でまり子から焼き栗を口に入れてもらう。
(そのシーンの美しかったこと。)
あんな風にやさしくしてもらうことが、やさしくしてあげることができるだなんて。
奇跡は起きてしまう。あたりまえに。
ひとりぽっちなんか絶対にいやだから。
元々ウソをつかれ、傷ついていたのが実はまり子だったことに今回やっと気づいた。
野ブタ。より前にまり子がそういう立場にあったことなんて忘れてしまっていた。
そのまり子が場合は違えど同じ状況にある野ブタ。のそばにいることになる。
びっくりしてしまう。
そして今度は屋上でまり子と修二は以前のように向き合うカッコになり、
しかし今回、修二からは傷つけるような告白ではなく、思いやりのあることばと気持ちが放たれ、
以前は悲しい表情で受け止めた修二のことばをまり子は今回、笑顔で受け取ることになる。
前回、ともだちの信頼を失ってしまった修二は、自分のためではなく、
野ブタ。のためにクラスのみんなに呼びかけることになる。
事件以来、みんなにことばが通じなくなってしまった修二の声はしかし、
彼が頭を下げ、野ブタ。が教室に戻れるようにと嘆願し始めると、
後半、それまでだったなら「こころの中の声」でしかなかったその声が、
気づくと彼の口から実際にことばになって溢れ出し、
修二の「こころの声」を聞くことになったクラスメイトたちに通じ、信頼を回復する。
びっくりしてしまう。
だって嘆願の後半のことば、はじめのうちは「こころの声」だと思ってたんだもん、
だって修二頭下げてるし。それで彼の口元なんか見えなかったし。
そしたらまさかほんとに声に出していただなんて。
みんなの期待に応える人気者の「桐谷修二」はその場で彼のダークサイドだったはずの
もうひとりの「桐谷修二」と融合してしまった。
奇跡は平気で起きてしまった。
それもじぶんのためじゃなく、野ブタ。のためを思った結果で。
彼は野ブタ。を救うつもりで自分を救ってしまった。
そしてその修二のまっとうさに事件以来、彼への信頼を失っていたひとりのクラスメイト、
彼だって傷ついていたひとりだ、その彼でさえも救ってしまった。
(彼の傍らのシッタカも笑顔だったのがうれしかった。)
修二の「こころの声」を聞き届け、笑顔で彼を再び迎えることになる。
「みんなにしあわせになって欲しい」、野ブタ。の願いは叶ってしまう。
びっくりする。
無理矢理奪い取ったかのようで、見ている方でさえ、気分のよいものではなかった
蒼井へと行き渡ることになった3本脚の野ブタ人形。
でもまさかそれが蒼井を、そして修二、彰、野ブタ。を救ってしまうだなんて。
「友情のお守り」は伊達じゃなかった。ほんものだった。
屋上から蒼井が落ちた後の人の形に窪んだ地面をその4人が見た後、
気がつくと蒼井と野ブタ。の手は握られていた。びっくりした。
だってそれはまり子が野ブタ。へと差し出した焼き栗が野ブタ。を経て
蒼井へと至ったってことでもあるから。