國家は私達から、乙女の夢まで、取上げてしまふのでせうか。

幸せの国

The Three Degrees - We're All Alone 1977
いつの間にかおれは幸せの国から遠いところへ来てしまっていた。
いや、距離は間近いはずなんだけれど、でも手が届かない。
いや、手を伸ばす気にならない。
幸せの国は自分とはもうあまり関係のないことのような気がしてしまっていて。
いつかまた幸せの国に戻るとしたら、きっとずっといろんなことが上手くゆき、
気持ちに余裕が出来たときだろう。
幸せの国、って、でもなんのことはない、TVだったり映画だったり
小説、マンガ、なんかそんなもんで、以前だったなら、
そういう世界に逃避すればホッと一息、安全安心な気がしていて、
むしろ自分はそちらの世界に住んでいるような気がしていたのだけれど、
いまはこのリヤルの国に住んで、このリヤルでこそ幸せになりたい、
そうじゃなきゃ、この不安から逃れることはできない、そう強く思うようにはなったんだ。
現実逃避が現実逃避としての機能を果たしては、もうくれない。
幸せの国にはもう戻れない。なんかそんな感じ。
生々しい不安は生々しい喜びでこそ解消される。
生々しい喜び、それ以外にはもうぼくを救ってはくれない。
「生々しい」ったって、必ずしもセックスのことじゃあなくて。
それももちろんあるけどさ、全部じゃあない。
リヤルでの喜び、人とのつながり、コミュニケーション。
The Three Degrees -Love's Theme/Don't Rain On My Parade
そうだ、幸せの国では、いつでも特別ゲストで、けして苦しみもなく、不安もなく、
あらゆることが他人事で、常に安全で。
当事者になることはけしてなくて。
おれはそうだ、当事者にこそなりたいんだ。
そのぶん不安も大きいけれど、幸せの国で過ごしている間にも
リヤルはどのみち進行していることを思えば、
べつにいまさらにリスクが増えたわけでもなく、
ただリヤルに目をやる時間が増えたに過ぎない。
そうしてリヤルで、当事者の喜びを味わいたいんだ。
それがなによりの望み。
生々しいとはつまり、そういうこと。
実感したい。そんなことだと思う。
そう、大したことはない。ありきたりの望み。
Chris Rea - The Road To Hell (Full-Length)