國家は私達から、乙女の夢まで、取上げてしまふのでせうか。

東大以外は大学じゃない

遅刻できる人が羨ましい。おれは早目早目に行ってしまう。学校行ってる時からそうだった。気が小さいせいだ。それに仕事が続かない、なんて人も羨ましい。おれは世間とは折合いがよろしいとは云い難いが、ぜんぜん変わった人でもなんでもなく、まったくのふつうだ。おれの悩みといったら昔から、おれはふつうの筈なのになんで世間とはズレてしまうんだろう、ってことだったし、夢といえば人並みになること(ともだちができる、ライヴに行く、演劇に行く、彼女が出来てデートとかする、等)だった。(いまや数々のおれの夢は30歳を過ぎて以来徐々に実現し、特にまたインターネットの御蔭であれもこれも叶ってしまい、あとは余生穏当に過ごすことばかりが望み)そんでそんでそんで。おれは変わり者とか、どうしても世間と折合いがつかない人が羨ましい。バイトしても三日とつづいたためしがないとか、そういう人。おれにはとても軌道を外れるような気概がない。借金もできない。ちんまりとした生活を崩すに忍びない。でもなあ、それもあるけど、常識的で小市民的価値観があるんだったんなら、もっとこう、それに見合ったもう少しマシな生活が欲しかったな。特に若い頃。軌道外れてんならともかく、そうじゃないなら人並みにともだちとか人づき合いとか、ちゃんとした就職とかしてみたかった。大学出る時点で(当時はいわゆるバブルのそれ。にも関わらず)。当たり前の新卒入社がしたかった。当時は就職活動どころじゃなかったもんなぁ。ともだちがいなかったんだ。まずなにより。(小学校〜大学と同級生、同窓生の卒業後の動向を一人も知らない。進学先も。就職先も。未婚も既婚も離婚も。風の噂もおれのところは無風地帯だ。そよとも吹かない。同級生と付き合いのある人が羨ましい。)ノイローゼ〔死語〕だったし。ネクタイの結び方がわかんなかった。まあいまはそれでもだいぶん持ち直したし、レヴェルは低いけどさ、精神的にもだいぶん落ち着いている。だからまあいいか。でももうちょいオカネが欲しいかな。

  • いまのおれは人とのつきあい方を心得ている。といっても理屈のことじゃない。そうだ。久し振りに思い出したおれの理論。「ともだちのいる人にはともだちができる」。つまり、ともだちのいない人にはともだちができない。
  • どこにでもともだちのいない人はいる。ともだちのいない人はともだちがいないので、その人にともだちがいないということを気づく人がいない。ともだちのいない人ってほんとうはいっぱいいるのになあ。(この場合の「ともだち」っていうのは大仰な意味のそれじゃなくて、ほんとうのナンタラとかじゃなくて、単に知り合いに毛が生えた程度からそれ以上を云う。)
  • ともだちがいるってのはいい。世間に混じれる。自信が持てる。喫茶店にひとりでいてもドキドキしない。
  • で、おれはひとりの期間が長かったのでともだちのいない人、いたことのない人のことをつい考える。人は自分の範囲しかわからない。そしてまた自分の範囲には興味が行く。