國家は私達から、乙女の夢まで、取上げてしまふのでせうか。

小さな兵隊


アンナ・カリーナが自転車に乗るのは「はなればなれに」だったっけか。
「小さな兵隊」、考えてみたら劇場で観たのかなあ。そういえば。
これは地味な感じがするが、それはきっと主演俳優さんが地味なせいなんだろうなあ。
そんでジュネーヴを舞台にしたスパイ映画だったょ。
終始彼の陰鬱なモノローグ、自問自答がつづく。
それもまた地味な、暗いイメージを形作っていると思われる。
あと拷問シーンがあって、それが案外ゴダールにしては重く、ちょっと長い。
拷問としてワイシャツを頭に被せてシャワーで水を掛ける、ってのをやってるんだけど
それとおんなしのを「気狂いピエロ」でもやってて、でもあちらはもっとばかばかしく
気軽に観ていられる。それは「気狂いピエロ」だとジャン・ポール・ベルモンドで、
彼のキャラクターってのも大きく作用しているんだろうなあ。
音楽がピアノのみで、要所要所、場面に合わせて印象的なフレーズを弾いていて
画面が引き立つ。ソニマージュってるし、よい。
時折、音声が消え、サイレンスになる、ゴダールのお得意もいいし。
街中を車で流しての車窓風景をああも魅力的に見せるのは「アワーミュージック」にまで至る。
ゴダール真骨頂。
主人公のスパイ君は果たしてカメラマンなのか、アンナ・カリーナを彼女のアパートで
撮影するんだけど、そこんとこが結構長く、それはどう見たって、ただ単に
アンナ・カリーナが可愛くてたまらないゴダールのエモーション丸出しなのであります。
ああかわいいよアンナちゃん!100%カワイイ!(by 修二)それが故のシークエンス。
大体それ以外にもアンナに会って5秒で恋した主人公が彼女に頭を左右に振って見せてとか頼んで、
彼女はそれに応じるわけだけれども、それってまったくアンナ・カリーナの髪がゆれる様が
可愛らしくてしょうがないゴダールが、その様子をキャメラに収めたいが為でしかないのであります。
ばか。時折、彼氏、ゴダール自身もちょこまか顔を見せるしね。セリフとかないけど。
若いゼ青いゼ。どんだけアンナ・カリーナに惚れてるっつんだか。
アンナ・カリーナにやたらと髪をかきあげさせたり、髪の毛を梳くような様をさせたりと
髪フェチ(A・カリーナ限定)か、あんたは、ってぐらいの勢い。
あとA・カリーナ、気のせいか、この映画だとまだだいぶんフランス語が拙いように思える。
どっちみち舌足らずな感じではあるにしても、なんかもっとぎこちないような気がする。
フランス語に疎いおれが云うのもなんだが、なんかそんな感じ。
それがまたたまんなかったんだろうけどね。ジャン=リュックには。
主人公の彼氏とアンナの両人、これがまたやたらとタバコを喫う。喫いまくる。
すごいシャレた感じなんだわ。軽い感じで。しかも。
主人公のモノローグは当時のゴダールの素直な心情吐露、政治に対する態度、
心情そのままのようで、まあいつもそうだが、ここじゃもっとなんつうか、わかりやすく、
あんまり入り組んではおらず、そういったまじめなテーマの一方、
アンナ・カリーナのことになるとばかみたいになってしまう、そこらへんの同居具合、
アンバランス。そういう傾向はこの後もずっとつづきはするわけだけれども、
ここではまだストーリーの重苦しさの中にアンナへの思いの明るさが点在している感じ。
その明暗の思いがここではまだ融合していない感じがする。そこらへんがやっぱどこか地味で、
他の作品に比べると少し奥へ引っ込んだような印象がある原因なのかしら。
(主演俳優が地味、ってのが一番の要因だとは思うが。)
とかなんとかつまんないこと言っちゃったが、やっぱ好きだわ。これも。
あちこちいいし、すべてのショットに愛しさをやがて感じてしまう。