國家は私達から、乙女の夢まで、取上げてしまふのでせうか。

姫野カオルコ

ああ正妻

ああ正妻


姫野カオルコ「ああ正妻」を読む。
「信じるよ・・・・・・。信じられないけど・・・・・・
この、主人公小早川対する瓶野の返事で、活字が妙に小さくなるのがなんかよかった。
印象が強い。
(ちなみに字が小さくなり、心象を表すこの手はここでだけ使われている。)
ラウラ・アントネッリに対するある世代の男性への解釈は当を得ており、うれしかった。
この世代の彼らが思春期にはTV洋画劇場はたびたび『青い体験』を放映していた。
彼らは、夜の早い祖父母が寝たあとや来客が帰ったあとなどに、二台目のTVで『青い体験』をコソコソ見た世代である。

(「青い体験」がそんなわけで未だDVDになっておらんのが、納得ゆかず、はまぞニングもできゃしない。)
イノセント 無修正版 デジタル・ニューマスター [DVD]

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(しょうがない、そんなわけで「青い体験」の代わりで、コレ↑)
あ。そうだ。世の中にはこんな便利なものが。YouTube

「青い体験」
小早川の「あの三日間」の描写、よかったなあ。
おっかしかった。
なんかよくわかるし。
初日、昼過ぎに起きて「ごきげんよう」見ながら日清UFOに薄焼き卵載せて、岩下の新生姜2切れ、それに缶ビール、
そしてJ-WAVEから流れる「オネスティ」。
ここらへん、冴えてる。
なんかありそう。そんで気持ちよさそう。そのだらしなさが。
狛江とか高津とか久我山とか、そんな実在の地名、それに上記した日清UFO、「ごきげんよう」他、
evian、au、TSUTAYA、サントリー『山崎』、クロレッツ、等々の実在の固有名詞、そういったものが利いてる。
(どう「利いてる」かまでは聞かないでくれ。だって、なんとなく、そうなんだもん。)
川田教授が結婚をテーマの新書を書く際に草稿として、座標軸を採り、
男女の結婚へのスタンスを分析するが、そこでの収入の実際性への言及がある意味生々しく、ぞっとする。
身の回り、それに自分自身の経済状況などを鑑みてもしまうし。
川田教授の内的独白による、
そりゃ、きみの小説は売れんだろう
こんな作者による、自己解析(?)がまた読んでてたのしかったりもするが、困った、オチが出て来ない。
「いやいや。このしくみを考えているようでは信仰にならない。
カテリーナやブリジッドのように聖痕はあらわれないのよ」

「このしくみ」というのはモテるためのそれのことで、自分はモテると思える人間がモテる、
といったようなことであるが、そのためには瓶野曰く、
考えるんじゃない、感じて感覚して信じることが大切なのだ。
まー、そーいったことである。
と、以上、全体にオチのない、といって的確な引用の連続とも言い難い、
なんとも中途な感想未満のようになってしまい、もうちょっと畳み掛けるような、
そしてその勢い自体が表現となっているかのようなものを物したかったが、とりあえずこんなだ。
あとほんとは手法の分析とかもしてみたい、というか、単にどの章ではこんな文体で、誰が書き手で、
みたいなことを並べる程度でいいんだけど、そんなこともしたいけれども、頭がまわらない、手がまわらない。
雪穂というのはわかりやすいキャラで、けれどそこにばかり目が奪われてしまうと、他を見逃してしまうし、
わかりやすい分、実は内面のない、フラットなキャラクターでしかないとも云え、
(小早川のごめんなさいセックスの翌日にゴキゲンになるというのが典型)
実は雪穂というのはその他の人物や結婚というものを考察するに際しての、なんていうんだろう、
動機付け、話の発端としての存在、他の人物を、結婚というものを照らし出す為の装置ともいえ、
例えば川田教授の結婚生活について考えてみるとか、おれとしてはバツイチとなったミコ、というか、
彼女が敢えて描写され、注視されていることに、ちょっと「おっ」と思ったりしたし。
それにここでは結婚後も浮気(あるいは本気)をするのはもっぱらに男だけで、
女性は結婚に対して保守的で、家庭を崩すことをよしとしないのはなぜか?
そんなことを考えてみるのも一興か、と。
といって、べつに作者がどう考えているか、とかそんなことじゃなくて、自分の思いつきをいかに
それらしく並べ立てるかが、ミソ、ってこと。腕のふるいどころ。評者の幸せ、ってはなし。

(以上、あれこれフルだけ。まとめられない。。。投げっぱなし。。。)
小早川は閻魔に梅干を入れてもらって、お湯割をもう一杯注文し、
アヤ子の、『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』でのフェルナンド・レイがいかによかったかの講釈をじっくり聞いた。


「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」
これ、すっげーくだらないコントが脈絡なくつづくだけの傑作。
和む。
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