國家は私達から、乙女の夢まで、取上げてしまふのでせうか。

姫野カオルコ

ツ、イ、ラ、ク

ツ、イ、ラ、ク


『ツ、イ、ラ、ク』、先日読み終わったが、あーしかし前回読んだときはどーだったんだろー?おれ。
この前はなんかもっとストーリーを追うのが先になっていたのか、単に忘れっぽいせいか、
たぶんそれもある、今回は細部の事毎に惹きつけられ、ちょっとたまんないものがあった。
文庫仕様なのをよいことに読了後ずっと本を撫で回していたりしたぐらい。
触感、そこに来てるから。なおさら。
小説に限らない、映画でもなんでも、みんな最中は細部でもちょっとした
セリフまわしでもなんでも、表層批評な感じで受け取ってもいるはずだのに、
これがいざ感想を書く段になるや、粗筋とオチだけが取沙汰される。
学校の読書感想文の弊害か。
大体あの手のものは読みもせで、どこぞで粗筋を仕入れ、
それを延々と綴り、あげく、「よかったです。」ぐらいのことをちょこりと
付け加えてお茶を濁すが常、だってさ、要は宿題だから、やっつけに決まってる、
それできっとそのクセが残ってしまい、勝手に書いていいはずの
ブログなりなんなりでもやはり感想となれば、粗筋とオチ、そこだけになっちまう仕組み。
もったいない。
小説はなんかしらの主張じゃあないので、描写される事物、またその手つき、
そこいらの話をしないと無味乾燥になりがち。
それでおれは今回、『ツ、イ、ラ、ク』の感想、出来れば気になる箇所引用しては
ポエムを添える、そんな趣旨でヤッってみたいとは思うが、実際無理だ。
そんなんができればなー、っていう夢の話。
おれはさ、冷静な判断や分析を記したいのじゃなく、
自分の心の揺れ、震えをそのまま記しおきたいのだ。
今回に限らず、出来うれば感想の類は。
よかった場合はね。
準子はけど、今までの姫野作品の主人公たちと違い、割りに笑う、
それも人と交わりつつ、ごく自然に笑うようなことがあるような気がするのだけれど。
顔にともった照明のまぶしさにつられて、準子は笑った。
「おう、ええがな。森本は笑うとええのう」
倦怠的な風貌は笑うとたちまちにして溶けてゆくクリームのように甘くなることを、
準子本人は知らない。甘さにつられて、じゃがいも桐野はまた笑った。
褒められてうれしく準子もまた笑った。
「そやそや。そうして笑(わ)ろてえ。ごっつキュートやで」

(第四章「弁当」P.200)
おれが細かい作業を厭わない人間ならば、活字を追うに長けた人間ならば、
姫野作品、まー長編限定でよろしい、主人公が笑うシーンを数え上げ、
並べてみたいところだが、いかんせん、アイディアは出ても、実行力には乏しいので、とりあえず、ママ。
愛しいものは憎い。
憎いものはまた愛しい。
三ツ矢の憂鬱と劣情、そして、長い時間の後、
「もう行く」
肯いて三ツ矢は伝票を持った。
「ここはぼくがおごるわ」
「いいよ。そんなの」
「"ワリカンにしとこうよ"て、たしか、そんな歌もあったな。
そやけど、ここはぼくがおごらんとあかんねん。」
三ツ矢はようやく切り出せた。
「あのときは悪かった」
準子と立って向かい合い、三ツ矢は彼女に謝った。
「いいの」
準子は帽子をかぶり、鞄を持った。
三ツ矢はコーヒー代をふたりぶん支払った。
「コーヒー、おいしかったよ」

(第八章 「家」 P.481)
そう、いつか謝ることは出来、「コーヒー、おいしかったよ」って返してもらえる事だってある。
それでいーじゃん。ね。
(つか、上記、引用した辺りは、さきほど書き写す際にも泣いてたんだけどさ)
あまり考えると構えてしまい、書けなくなるので、思いついた順に行ってるが、
しかし今回、統子はある意味わかりやすくもあるが、出て来る女性がひどく性的で、
特に小山内先生は、なおそう、いや筆頭で、そして準子は
「栴檀は双葉よりなんとか言うやないか。あいつはな、ド助平や」
(第八章 「家」 P.496)
との、佐々木の言にある通りの人物でも実はあって、あ、そっか、以上3人はまた
特にそれぞれがそれぞれに「恋に落ちた」経験のある、
運命の出会いといったものをした人物ばかりじゃないか。
通常、「恋に落ちた」といえば、それは純愛、よそに目移りなぞする暇(いとま)もない
といった風情だが、しかし、統子、小山内、準子の3人は違う。
彼女らは「ド助平」であり最愛の相手以外の男と寝るのを厭わない。
というより、むしろそれを積極的に求める。
ただ、準子はあることがあり、その淫欲を封殺されるが、
もしそれがなければ、準子もまた、彼女らとは違うが、その「ド助平」を
抑えることはきっと出来なかったに相違ない。
(桐野とのつきあいがありつつも、河村を求めるのに、準子、既に躊躇いがないことに注意。)
恋と肉欲を分かつ術(すべ)はない。
(最もロマンチックな者は最もスケベ、とはおれの以前からの感慨。)
女がここではあくまでも性に貪欲であって、それは肯定されている。
小説とはこれ、アンチ・モラル。
ヘンリー・ミラー、出てくるしね。そういや。
ああ、ここらへんの「性」のテーマに関してはなんかもうちょい
掘り下げてみたいが、今は手がない。僅かな断片並べたっきりだ。
そしてそれらを上手く繋げられない。
なんか半端だなー。というか、まだ出だしって感じだ。
つづき、書きたいけど、いまんとこアテはない。