國家は私達から、乙女の夢まで、取上げてしまふのでせうか。

ミスト

「ミスト」、フツーだよなー。
なんであんな評価高いんだろう?
フシギ。
キリストおばちゃんといい、最初に外へ出てく女の人の唐突さや、とってつけた感、周囲の反応の凡庸さ、すごくありきたりでカタにはまってるよなー。
そういうのが見てて気になっちゃって、どこかシラけて見てた。最後まで。
小っちゃな女の子とかいたのに、その子のエピソードとかまったくないし。
ライトつけちゃって困ったことになった後に「ライトを消せ〜!」とかってのがあるのに、ライト、誰も消そうともしないし、なんもないし。
その他、演出や脚本が半端なトコがいくつもあって、シーンをいくつも撮って、編集の際にカットしたシーンがあるんだろうなーってのがなんか見えちゃって、そのせいで場面が跳んじゃってるように見える。
あれだけキャラの立ってた弁護士のオヤジが始めの方で、まったく聞く耳も持たないまま、いきなり消えちゃうってのもわかんない。
主人公と仲悪いのに、とりあえずいっしょにクルマに乗ったりするわけで、お、ちょっと関係に変化出た?とかって思ったのが、スーパーに閉じ込められるや、まったくの聞かん坊になっちまうだなんて。
じゃーさ、なんのためにあれだけキャラづけしてたのよ?!って感じしちゃうじゃんか。
意味ねー、みたいな。
脚本、クレジットだとフランク・ダラボン一人になってるけど、これは脚本が一番大事になるタイプの映画なんだから、複数でアイディア出し合うか、そうじゃなくとも脚本の練りが足りないと感じてしまう。完璧な脚本が出来てから、カットなしで撮る、そんなのがふさわしい映画だと思うのに、見てるといくつも他にあった場面、テキトーに削って、行き当たりばったりに作ってるみたく見えてしまう。
キリストおばちゃんに反対する主人公側の数人が余りにもフツーのインテリめいた会話を交わすのは、あれはちょっとなー。
「人間は本質的に邪悪で」みたいなさ。
リアルじゃない、ってのもあるんだけど、でもそれこそは作者の代弁みたいので、青臭く、インテリ臭い考え方やシャベリが出てきちゃっても、それは構わないし、場合によっては、その思わず自分の思いが登場人物の会話にそのまま生硬なまま、出て来ちゃうこと自体が、好ましい、微笑ましい(上から目線じゃなくて、共感できるという意味で)ってのもあるけど、でも「ミスト」のは単にミス(ミストだけに)、セリフ・脚本が練れてないって感じが強いばかりで。
霧で閉じ込められるっていうと「首都消失」を思い出しますな。
首都消失」はださい映画だけど、でも感じさせるナニカがあった。

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漂流教室」に似てるって感想はやっぱいっぱいあったけど、怪物の造型といい、パクリかと思うぐらいな勢い。
でもやっぱ、子どもがもっとやられちゃうとか、逆に子どもがもっと邪悪さを発揮、みたいな方が見てるほうは盛上がる。
蝿の王」パターンで。
あ。「蝿の王」、最後に軍艦が来るのだった。。。
島に取り残された子どもたちを助けに。。。
てか、おれは霧ばっかでずっと謎なのかと思ってたのに、いきなり怪物が出て来ちゃうんだもん。
なんかなー。
もっともったいぶって欲しい。
できれば最後になっても霧の中で何がどうなってるか、わからないままがいいよ。
ほんと。
ハリウッドでメジャーな映画だとそうもいかんのだろうけどさ。
テレビドラマ見てるみたいだった。
こういうのって。
そんでテレビドラマでこの手でもっと出来のいいもんは幾らでもあるんじゃねーのか?
トワイライトゾーンとそういうのんで。
オチがまさかそうなのかなー、そう来ちゃったらやだなー(心理的な意味合いじゃなくて、思ったとおりだったらつまんねーなー、ありきたりで、みたいな)と思ってた、正にその通りで、ちょっとガッカリ。
大体その以前に女性コーラスで「あ〜あ〜」みたいな不気味っぽいBGMが掛かって、その音楽のいかにも具合、よくありがち具合で既にシラけちまってた。ほんとは。
そんなに絶望感を感じさせるような、エンディングかなー?でも。
てか、あれか、おれがそこまで、そんなにノッテ見てなかったからか。
いやーそんなわるい出来なわけでもないんだけど、期待値が高すぎたのと、諸処に目に付く荒さ、カタにはまった具合が見てて気になっちゃって、見終わった感想は「フツー」って感じになっちまった。
ええと、話がありきたりだとか、オチがミエミエだとか、そういうの自体はぜんぜん構わないんだよな。
ただそこに映画の、ってか、芸術の力があるかないかで。
それがあればどんなにありきたりな展開でも、御都合主義でも、どんなに予想通りのオチでも、普遍性を獲得して、感情に触れてくる。
でも「ミスト」は物足りなかった。
スピルバーグの「宇宙戦争」見たときの「ああ。」っていう感動がなかった。
宇宙戦争」なんかオチなんかまるわかりなのにさ。見る前っから。
でも「宇宙戦争」には普遍性があった。
それはどこがどうって言えない。芸術の秘密だから。
それがわかれば誰も苦労しない。傑作を作りつづけられる。
宇宙戦争」はハッピーエンドがまるでとってつけたようで、その「とってつけた感」がまた感情に触れて来たし。うそくさいのが、逆に。
スピルバーグが「こんなハッピーエンド、どーでもいーでしょ、どーでもいーんだもん(ほんとうに言いたいことはもう言っちゃったしさ)」て言ってるかのようで。
その「とってつけた感」がまたゾッとして。
宇宙戦争」の方が絶望感が強かった。おれには。
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スーパーマーケットが舞台っちゅうとこれはもう「ゾンビ」ですな。
「ゾンビ」にあって「ミスト」にないもの。
おなじくスーパーマーケットが舞台のゴダールの「万事快調」にあって「ミスト」にないもの。
「ショーションクの空に」にあって「ミスト」にないもの。
たぶん絶望が足りない。
いや、希望が足りない。
だから絶望が半端。
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ヴォネガットだって山本夏彦だって、やたらと涙もろくて、気持ちが熱くて、おセンチで、人間を信じてて、信頼や友情を信じてて、でもだからこそ、現実がぜんぜんそうじゃないのに、やりきれなくなって、結果的にシニカルになってしまう。
でも「ミスト」にはそこまでの人間への関心がない。共感がない。
ショーシャンクにはあったのに。
ああして狭いところに閉じ込められてって話んなると、どうしてそういうのを「演劇っぽい」って感じるのだろう?
演劇に特徴的なナニカがああいう設定にきっとあるのだろうなぁ。
てか、前提となる設定、密室的な設定、って物自体が演劇的、なのかも知れん。
キアロスタミの「オリーブの林をぬけて」は最初の方、随分と長い間、車内だけのシーンがつづくのに、それもごく狭い動きしかない、でもちっとも息苦しくもなく、演劇的とも感じないのは、でもなぜなのだろう?
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はじめに主人公が描いてた「荒野の用心棒」のポスターはなんか伏線、ちゅうか、お話全体の予告なのかなー?
まーきっと意味はあるんだろうなー。
インタヴューとか読めばいいのか。監督の。もしかして。

ラストに向かってから、なんかテンポ落ちるし。それに。
それまで割りにきびきびしてたのが。
あとどうせなら、ラストに向かっての音楽、なんかの拍子にクルマのカセットかなんかが掛かって、それがえらくノーテンキな曲とかだったり、なんてのだといーかも(いま、思いついた)。
最後に4発だけ弾が残ってる、っていうのも、4人撃ち殺して、自分が死のうとしたら、ドーン!みたいんでクルマが揺れて、あるいは怪物が来ちゃって応戦して弾切れで自分だけ死にきれなかった、みたいなのとかにした方がいいかも(これもいま書きながら思いついた)。
ウィリアム・ゴールディングの「蝿の王」のラストとおんなじ、っていうのは、監督も意識してんじゃないかなー。あと。
蝿の王」だと向こうに船が見えて子どもたちが助かった、って思うと、それが軍艦で、小さい島の中で子どもたちだけで争ってて、やっと大人が救いに来たと思ったら大人たちが戦争してる世界に戻るだけ、ってのがゾッとして、あれは昔読んだ時、よかったし。)(おれの記憶はちょっとあれだが)
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