國家は私達から、乙女の夢まで、取上げてしまふのでせうか。

松本清張

「眼の壁」を観る。
これ、撮影が厚田雄春ですよ。けど別にどうっちゅうことのないキャメラなのでした。
(撮影助手は大島渚で御馴染み川又昂。58年ですから間もなく松竹ヌーベルバーグ。)
で、監督次第ですな。やはり。監督が撮りたいものと方針てのがあるわけで、それに合わせるのはまあ当然。
考えてみれば厚田雄春じゃなくとも小津映画のキャメラは例の調子なわけで、専門的に細かく見れば
あれこれ違うのかも知らんけど、おれなんかが見たくらいじゃ全部いっしょだ。
松本清張なのに、ラスト、精神病院で銃撃戦になったり、そこの地下室で硫酸に人間が溶けたり、
とまるで江戸川乱歩の映画化とかなんかそういうのでありそうな展開になるのでした。
原作読んだのはたぶん小学生の頃で、もう30年は前だから、なんにも憶えてないけど、
まあおもしろかったのと、硫酸で死体を溶かすのだけは憶えてる、原作がどういう風になってて、
映画化されたものとの相違は如何にってのは測れないけど。でもああは派手派手しいって
ことはないと思う。松本清張だし。大人の心理ドラマの人で、先日観た2本(「風の視線」「波の塔」)
がメロドラマだったように、そういうのと馴染みがいいような話を書く人だし。
あまりアクションが派手ってことはたぶん、ない。監督の大庭秀雄の趣味、志向なのかしら。
(貧しい村出身の男が戦後、正体隠して政界の黒幕になって云々、と話自体、結構通俗な面白味のあるもんではある。
あと大庭秀雄って「君の名は」を撮ってるんだ。「性典シリーズ」〔観たい。〕も撮ってるし、松竹の稼ぎ頭〔?〕
こういう、当時活躍してて、才能ってことではちょいと疑問があるような人じゃあっても、
稼ぐ映画や話題作を撮ってた人の映画も押えた上で小津映画とかも観てみたいものですな。
当時の製作側、観客側、世間全般の雰囲気、そういう中での位置づけとか味わいたいですな。
そうすれば更に興趣も増すってものでしょう。単に当時に行ってみたいってことなんだけどさ。
タイムマシーンが欲しいのが人情ってもん。)
始め、松竹の例の富士山のマークが出るところで《 グランドスコープ 》ってでかく出る。
シネスコ時代ですな。「シネマスコープ」に各社が勝手な名前を付して、まるで自分たちの
発明であるかのように呼ばわっていた頃。
(てゆうか、厚田雄春がシネスコって。)