國家は私達から、乙女の夢まで、取上げてしまふのでせうか。

キム・ギドク

悪い男 [DVD]』を観る。
サマリア』のチラシにも公式HPにも使われている女の子2人のスチルが気になるので、観るかどうか、
同じ監督の別の作品を観て決めようかなあと思い観てみた。
しかし考えてみれば以前『魚と寝る女 [DVD]』を観たことがあったんだよなあ、
と思い出したりしてた。
なんかトレンディードラマみたい。撮り方とか。画面がスッキリしすぎ。整理されすぎ。
ヨゴシがない。印象が平板。それは『魚と寝る女』の時にも感じて、わるかないけど、
でもそれほどおもしろくもないかなあ、ってのは今回もそうだった。
それにエゴン・シーレかあ。ううん。ステレオタイプ。
しかもそれを分っててワザとやってるとは思えない。
ありきたりを更にたのしむの類で撮ってるつもりでもないだろうし。
音楽も、音楽の入れ方も平凡。それがこの映画のすべてを物語っている。凡庸。
わかりやすい、受け入れられやすい過激さ。デヴィッド・リンチとかさ。
例えば大林宣彦の方がよほど過激だよ。気持ちわるい、って意味では。
この前観た『オールド・ボーイ』もそうだった。カンヌ好みのウスッペライ過激さ。
いや、『オールド・ボーイ』はそんなわるくはなかったけど、でも大したことないじゃん。
めっちゃふつう。
いっしょにいったともだちも上映後、「ウェルメイドだったね」と
おれが言おうか言うまいか、迷ってる先に言ってくれて、あの時は助かった。
もちろん「ウェルメイド」って点ではよかった。蛇足。
でも竹内力の『報復』の方がずっとおもしろいゼ。ごく単純に言って。
そしてファンタジーってのは『魚と寝る女』といっしょだった。
娼婦ファンタジーってのもいっしょ。
そしておとぎ話だから世界に余計なものがない。ヨゴシがない。
『サマリア』も売春の話だ。そういや。またファンタジーなのかしら。
ううん。あんまりそそられないないなあ。この監督の。
『サマリア』、止しとくか。とりあえず。女の子2人はカワイイけど。
別に過激さが足りない、もっと欲しい、ってことがいいたいわけじゃない。
おれはべつに過激なものなんか欲しくはないし、映画だったならばありきたりでぬるい話が観たい。
ただ世間てのはすぐに不道徳、過激、の類の文句で騒ぎたがるので、つい、な。
それに過激だ云々とか言う人がその同じ口で、さらっと差別的なことを言ったりすることが
世間ではよくあって、そちらの方がおれにはよほどショックだ。いつも。
といって自身の清廉潔白の証明の話をしてるわけじゃない。自分の中の、わざわざ奥深くまで
さかのぼらずとも、ごく表面的なところにある小心やそれに伴う憎しみや、嫉妬心、
その他に関しては充分に心得ていて、だからこそ、「過激、不道徳」がまるで
どこか外側、それも映画その他のフィクションの中にしか存在しないかの振舞いが納得できないってことだ。
すぐ隣に、自分の中に、なんの変哲もなく、別段めずらしくもなく、
「不道徳」も「過激」も「陰惨」も「暴力」も「性的偏執」も「不寛容」もその他その他も、
そして「愛」も「思いやり」も「ほがらかさ」も「ドジ」も「マヌケ」もその他その他もあるってのに。
シックリしない。スッキリしない。
大体さ、世界中のあちこちで、隣近所で、いまここで、戦争、強制収容所、拷問、リンチ、差別、搾取、
その他その他が引きも切らず行われているこの世界で、いまさらどこに
「過激」や「不道徳」が存在するっていうのか。
人類そのものが、自分自身がデフォルトで「不道徳」だってのに。
で、デヴィッド・リンチだったなら、おれは結構好きだし、『オールド・ボーイ』だってわるかなかった。
キム・ギドクはそのアート気取りがウスッペラサをより感じさせて、
ちょっとつまんないなあとかは思ったりもするけどさ。でもただそれだけ。
また機会があれば観て、それなりには楽しんだりもするでしょう。
そうだ。キム・ギドクアベルフェラーラに似てる?とかちょっぴり考えたりもしたんだった。
思い出した。
とか言いつつ、A・フェラーラの映画って2本ぐらい、それもどちらも始めの30分ぐらいしか
観たことないんだけどさ。だから大した根拠はない。なんとなくの思いつき。
題材の一見した過激さとそれに比しての映画としての平板さ。
まああちらさんはカソリックでもあり、贖罪の物語でもあるので、いろいろ細かいこと言えば
違うけど、第一おれは観たとも言えない、ごく単純な印象。
どちらかといえば題材とかってよりも、映画としての平板さの印象が似てるのか。
まあ、そんなことは余談で、要は題材なんてなんでもよくて、映画として、観ていて、
こちらに触覚的に迫って来るものこそが、映画それ自体が豊饒なものの方が
結果として印象は強いし、あとは自分の思い入れとか思い込みとか、ノスタルジーとか、
中学生の時に観たとか、出てる女の子がタイプだとか、そういったことの方が
巷間「過激」とか「衝撃的」とか言われるようなものなんかよりも、ずっとずっとグッと来るじゃんか。
題材なんて、実際観てる方としては二の次、三の次じゃないか。
ああそうだ。
『悪い男』、マジックミラー越しって、『パリ、テキサス [DVD]』みたいじゃん、
って連想したんだった。付け足し。
たかが映画。でも好きなんだから仕方がない。
キーワードでキム・ギドク、『悪い男』の評判を捜したら、
《 おまけに、映画自体が夜中の出来の悪いVシネマみたいで(特に音楽!) 》
(2004/12/22)〔id:ELEGY
というのを発見。
ああ。おれだけじゃなかったんだ。そう感じたの。《 (特に音楽!) 》ほ。
だってみんな総じて誉めてるのばっかで、どうしようか、日和ろうかなあ、
と考えてたくらいだったので。(ELEGYさんには引きずり込んで申し訳ないが。すいません。)
しかしなんだなあ、こうしてやたらにマイナス方向とは言え、あれこれ考えていると
段々気になって来て、しまいには好きになってしまうかも。キム・ギドク