國家は私達から、乙女の夢まで、取上げてしまふのでせうか。

外国

おれが子供の頃、外国は遠かった。ガイジンはめずらしかった。それだって既に
70年代の話で、そんな大昔とはいえない。中学の頃、当時流行った短波ラジオ
オーストラリアの放送局のワライカワセミの鳴き声が聞こえると、それだけで
なんかふしぎなドキドキするような気がしたもんだった。いまは日常的にネットで
外国に触れるのはなんの手間も要らず、めざましテレビでは毎朝ニューヨークから
生中継があって、ドキドキなんかぜんぜんすることなく、ああ、あちらは今日
くもりなのね、とかなんとか近場の天気を気にする程度に気にするだけ。
流行先取りでおれが生まれる前から(生まれてから今日に至るまでもだが)
年収100〜300万円時代(大体1ドルが360円だったりで、貨幣価値&感覚でさえ
違うのであれだし、結果実際はもっと数値は低いが、暮らし向きとして)の
我が家でさえ、両親共に海外旅行には数度行っている。ハワイ、シンガポール、
アメリカ、フィリピンとか。みんな日本が不況だの、年収何百万円時代だとかゆってるが、
現在の日本は世界的に見たってとてつもなく豊かだ。まだ贅沢が足りない、としか
その手の言説はおれには聞こえない。金の亡者しかおらんのか?エコノミック・アニマル
(死語)か?あんたたちは。その手の話するやつにはとりあえず親の職業と年収、
自身の年収と職業を述べよと宿題を出したいくらいだ。食うに困って娘を売るだなんて、
戦前の日本じゃまだありふれていた話だ。それがたった100年にも満たない前だってのに、
もうそんなことも忘れちまったのか。こんなにもこんなにも豊かだのに、まだ豊かさが
足りないのか。キチガイか。飢えてる子供の前で「日本は不況で大変なんですよ」って
言って来いっつんだよ。カネキチガイども。収入格差が拡がる?昭和20年代は?じゃあ。
戦前は?江戸時代は身分制だったじゃないか。そもそも。それだってそんな前じゃないぞ。
人類史的に見て。
おれの母親が子供の頃、お風呂を沸かすのはすっごく大変だった。水汲んで薪割って、
火の加減をずっと見て。沸かし直しなんて、簡単には済まない。一番風呂を殊更
有難がったのも道理。シャワーなんて便利なもんはない。冬場、水仕事は文字通り
手の切れるような冷水と冷え冷えとした土間での作業だった。温水なんて都合の
いいもんはなかった。いまは風呂はボタンひとつ。メシが欲しけりゃコンビニに
行けばいい。一人暮らしもすぐに出来る。すべては文明の御蔭。貧しい国と多くの
下層労働者を踏みつけにして。(自分自身も当の下層労働者だったりする因果も含む)
負け犬も負け組もどこにもいない。知らずに勝っている。
なのにぜんぜんうれしくない。なにかが間違っている。
みんなみんなほんの50年前、100年前のことを思い出すべきだ。どれだけ文明が有難いか、
思い出すべきだ。そして後戻りが出来ないことも。そしてそれでもなお、
なにも解決をしていない、解決するアテのないことを。