國家は私達から、乙女の夢まで、取上げてしまふのでせうか。

高校生活

先日「ダーツの旅」とか見てたら(番組タイトルはまた別だが、「ダーツの旅」って
タイトルでしか誰も認識してやしないので、これでいいのだ。青島が国会で決めたのだ!)、
どっかの高校のブラスバンド部の話をやってて、みんなで全国大会目指してがんばって
たりなんかして、特にトランペットの女の子はいずれは世界を目指す!みたいなこと
言ってて、その子は見た目もパシっとしてて男前で、すげえカッコよかったりなんか
したのだが、見ててなんかいいなあ、羨ましいなあと思ったのだった。
おれもこんなひねこびた生活、そしてかつての味気ない、まったくなんにもない、
砂を噛むかような高校生活なんかじゃなく、ああいう風に部活(これまたおれには縁がない、
入ってゆけない苦手な世界)で日々活き活きとがんばって、彼女はべつにいなくてもいいや、
でも親しく話す女の子ぐらいはいて、そしてともだちや仲間のいる、そんな毎日を
送ってみたかったなあ。おれは大体、ロマンチックで、べつにシラケ派(70年代用語)
なんかじゃないのだ。熱いのが好きなのだ。でも現実の方が実際シラケてて、おれのことを
弾き飛ばすのだ。こんなんやだ。つまんないや。ええとそれで。ともかくもあんな風な
思い出になるような高校生活を送ってみたかったなあ、って話。いまもし当時に戻れたら、
やり直したい。もちろん物事がおれに都合よく運ぶ、って前提で。そうだなあ、
おれの高校は演劇部が意外と出来がよかったりなんかしたみたいで、パフォーマンス好きの
おれとしては、そうだ、演劇部へ行こう。そうしよう。それで充実したハイスクールライフを、
悔いのない高校生活を過ごすのだ。その後ももっとマシに生きてゆくのだ。人並みになるのだ。
ともかくも、ちゃんと思い出になるような、他人との交通のある学生生活を。
話し相手は月に一度の「RO」と「LaLa」だけ、そんなん、ナシの方向で。
エネルギー、日々持て余すだけ、そんなんじゃなくて、打ち込むことのある日々を。
大体おれはさあ、ロマンチック・エナジーで吹き上がらんばかりなのさ。いつだって。
いまはもう年で、ちょっとあれだけどさぁ。
でもその熱の持って行き場がいつもなくて困ってたさ。
正に持て余してたさ。燻るってのはこういうことさ。もう疲れちゃったさ。42歳さ。
うむ。で、いまはともかく、もっと若い時に熱を発散する場が欲しかったなあ。
夢見る男の子の日々は2階の自分の部屋の窓から見える、
家(うち)のすぐ裏を流れる川向こうの桑畑を眺めるだけ。
時折イタチが走るのが見える。
世界はこの窓の遠くで無駄に忙しく、自分はここで静かで安全。
でもなにひとつおもしろくはなかった。それでいいんだと自分に言い聞かせてはいたけれど、
それはうそだった。なにかを望むことを、我欲を満たすことを望むことを自分に禁じていた。
でもそれは単に機会がないだけのことでしかなかった。すっぱい葡萄ならば、
自分は望むまい、そんな程度の。安い禁欲。もっと欲深くなってもよかったんだろうけれど、
しかし手立てがなかったのもまた確かじゃあった。世間に好かれるタイプじゃないならば。
アドヴァイスしてくれる人の一人もいるじゃなし。親しく話す相手は唯一、妹。
でもどこか遠慮したような感じで、ともだちとかそういうのとはまた違う。
必要だったのはともだち。外に出るキッカケ。
いまならば一人でもチャンスを作る方法のないじゃなし、でもその頃はまず家の外に出られない。
家の中にいたいわけじゃないのに。そして家にいたってもちろんなんにも始まりようもない。
人と知り合いようもない。といって、世間というのはまったく未知の世界。行きようもない。
なんにもわからない。ごく簡単なことができやしない。
自分よりもシャイな人間にでも出来るようなことでさえも。