生きものの記録
- 出版社/メーカー: 東宝ビデオ
- 発売日: 2002/11/21
- メディア: DVD
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黒澤明の「生きものの記録」を観た。
考えてみたらこれ、観るの20年ぶりだ。
かつて三百人劇場でやった黒澤明レトロスペクティヴで観て以来。
あの回顧上映を期に、黒澤作品、随分と観れるようになった。
「七人の侍」だって、まず観ることは当時出来なかった。
それが今じゃ全作品いつでも、近所のビデオ屋に行きゃ観れちゃうんだから、驚きだ。
さてこの作品「生きものの記録」、一般に失敗作と言われていて、
そしてなおかつ意外と評価してる人が多い。
ビートたけしも吉本隆明もこれについて言及していた。
ヘンな話なんだけど、黒澤明の原爆アレルギーが率直に出ている、真情迸ってる、
みたいな評価だ。おれも同感。なんか観ちゃう。気になってしまうし、観た後残る。
早坂文雄、最後の作品でもあるし。彼を失って後の黒澤明は迷走し始める。
そして時代も変わってゆく。これより後にも当然いい作品はあるけど、
でもなにかが、早坂文雄がいつも足りない。
で、今回20年ぶりに観て、登場人物のキャラクターがよく描き込まれてるのがわかった。
ホームドラマとして濃い出来になっている。但し観ていて、そんな彼らを、
話のなりゆきを納得出来るかどうかは別。
なぜか女ばかり主人公の老人(三船敏郎)に同情的でやたら泣いたりするし。
誰が云ったんだったか、黒澤明、あれは表現主義であるとの喝破があって、
それはこの「生きものの記録」も当然例外じゃなく、
例えば三船敏郎の老人メイクやブラジルから来たという設定の
東野英治郎の顔の黒塗り(つまり日に焼けていることの証)にしても
単にメイク技術の問題ではなく、そうしてある種の人物の心理を、性格を表している。
だってずっと後の「乱」とかでも仲代達也に平気でこれみよがしのメイクとかさせてるもん。
様式的。そして歌舞伎よりも能。
穿って云えば「生きものの記録」のラストが精神病院で終わるというのも
昔々はよくあったパターンであると同時に「カリガリ博士」の影響と
取ることだって出来る。(ちょっと無理入ってるが)
そういや、東野英治郎、ブラジルに帰るに際して飛行機に乗ってくが、
もう既にこの頃、昭和30年の時点でそうで、つまりは船旅とは限らない、
そうなると一体いつ頃からだろう?ハイジャックは、なんて観ててちょっと思った。
史上最初のハイジャック。
(ネットをちょっと巡ればすぐにでも判ってしまいそうなので、
今回は敢えて調べない。味気ないしさ、そんなことしたら。
含み、ナゾはナゾのまま、書いてる当人にも、ってのも文章の味。)