トウキョウソナタ
今朝7時から「ボクらの時代」見た。先週も見た。2週連続で鼎談のゲストはKYON2、香川照之、モックンだった。
そんでそれに影響されて今日早速に「トウキョウソナタ」見てきた。
よかった。
初めてだ。黒沢清の映画をいいと思ったのは。
いままでは見る度、欠点ばかりが気になり、感想書いても欠点あげつらってるばかりだった。おれはいつも。
しかし今回はそういった点はあまり気にならず、気になるレベルじゃーなく、むしろいい点を思いつくだに上げたいって感じだった。
わるい点はむしろ、オマケ、だった。今回は。
KYON2の表情がよかった。アップも多く、なんだかそこに映る彼女の顔もよかった。
見てるうちに今回、なんかバストショットとかない?あれ?とか思ってるとなんとクロースアップまであるのだった。
ええ?
黒沢清ってクロースアップ、いや、そもそもバストショットさえあったっけ?
おれ、そこまではちゃんと見てないけど、でも黒沢映画ってまずアップはないような気がしてた。
バストショットでさえ。
それが今回は顔のクロースアップ。
ええ?
黒沢清の映画でクロースアップ、それも顔のそれっていうとおれに思い出されるのはなんといっても「スウィートホーム」だ。
あの映画じゃもぉ、わざとらしいぐらいに、ってかわざとらしくクロースアップがあるのだった。
それ、見ててもぉ気になるくらいに。
あれはたぶん、伊丹十三の指示、下手すりゃ伊丹十三が勝手に撮り直して編集で突っ込んだ、くらいの勢いなんじゃないかと思う。
そして「スウィートホーム」を例外として、黒沢清はクロースアップ、バストショットを禁じ手にしてたんじゃないか?そんな風におれは憶測してた。
(いや、あるよ、って言われたら、おれはそこまでちゃんと押えてない)
それが今回はクロースアップ、アリ。
そしてどこだったか、バストショットの切り返しで会話するシーンがあって、ええ?!って思った。
バストショットの切り返しで会話。それこそは黒沢清が禁じ手にしてたんじゃ(おれ内妄想)?!
で、その切り返し見てて、あれれ?もしかしてこれは小津オマージュ?ええ?黒沢清が?
でも家族の話で、タイトルに「トウキョウ」ってついてて。。。
KYON2が「母親をやるよろこびっていうのもあるのよ」(うろおぼえ)って切り返しで言うところで、おれは、ああこれはもしかして小津安二郎?!ってガーンと来たんだった。
そこまではべつにそんな風に思っちゃいなかったのに。
なんだかそこで。
その会話の仕方で。
そしてそのKYON2のセリフで。言い回しで。表情で。
いつもいつも黒沢映画はセリフがひどくて、観念的で、硬くて、聞いててうんざりさせられてたんだけど「トウキョウソナタ」はそれがなかった。
いつもの生硬さがここにはなかった。
なんかもっと耳馴染みがいいのだった。
それはやはり脚本を黒沢清単独で書いてないのが効いてるんじゃないか?そんな風におれは思う。
元々見る前から脚本が監督単独じゃないってのは知ってて、それでちょっと実は期待してた。
そしたらなんかよかった。今回。セリフが。
ちゃんと聞いてられた。
鬱陶しくなかった。
ふつうのことばだった。
あと「トウキョウソナタ」、台無しな主題歌がなかった!
これ、大きい。
Coccoやバックホーンの歌が最後に流れて、拍子抜け、それが今回なかった。
いや、Coccoやバックホーンがわるいんじゃない。
曲そのものじゃなくて、それがよりによってドラマの終わりに流れてしまうことで、それまでの思わせぶりがだっていつも台無しなんだもん。
歌詞に意味がわかりやすくありすぎて。
歌、単独だったなら、それでぜんぜん構わない。
けど映画にはいつもそぐわなかった。
それはもしかするとスポンサーの関係とかなのかも知れない。
けど、なんだかいつもガッカリだった。
主題歌。
それが今回はなく、静謐に終わり、よかった。
そう、音楽といえばいつものゲイリー芦屋でもなかった。音楽の担当が。
ゲイリー芦屋の音楽自体はいつもわるくない。
けどいつも、その使い方にまったくセンスがなかった。
ここで、このタイミングで、こんな感じの楽曲が鳴っちゃうんだ、っていつもガッカリだった。
センスねーなー、って。
それが「トウキョウソナタ」、音楽がすごくよかった。
黒沢映画で音楽がいいって思ったの、今回初めてだ。
「トウキョウソナタ」ってもしかするといつもとスタッフも違えば制作環境も違ったんじゃないか?黒沢清の自己プロデュース部分がいつもより小さく、ある意味請負仕事だったんじゃないか?とおれは憶測している、というかそう思いたい。
前から思ってるけど黒沢清はお仕着せ的な環境で映画を作った方がいいっておれは思ってる。
自分でなんでも出来てしまう状況には黒沢清、向いてないっておれは思ってるから。
黒沢清って、メッセージが明確で、通俗とも言えるのに、映画自体は入り組んで思わせぶりで、なんだかいつもそれが整合性わりぃなあっておれは思ってた。
だからいきなりラストにCoccoやバックホーンでメッセージが丸出しんなっちゃって、なんだよー、みたいな気持ちにさせられちゃう。
それが今回はある種通俗でありきたりな設定と展開で、それがちょうどそのメッセージ性明確さと合っていて、それでいて説明的な主題歌なんかなく、メッセージが気持ちよく納まってる気がした。
あとファッションと美術。
今回でも食卓に並ぶおかずとごはん、食器などが、もうひとつパッとしないっていうか、観念的というか、物足りない気がしたり、ところどころ照明が影が出すぎだったりといつもの黒沢清なトコがあって、気にしぃなおれはつい気にしてしまったりしたけれど、でもなんだかそんなのもべつにいーんじゃね?って感じで「トウキョウソナタ」は見てられた。細かいことはさー、言わなくても、って。
ファッションにしても、特に女性のそれがいっつもダサくて見ててつらいんだけど、でも今回は気にならないし、いやよかったかも、ファショナブルとかってんじゃなくてさ、ちゃんとその人らしいというか、子どもたちや男連中も、それに伴ってか、「女が描けない」黒沢清が、KYON2にしても井川遥にしても、見てて素直に入って来た。とってつけた感じがしなかった。
これは脚本に女性が入っている結果なのか?
だとしたら、それ、よかった。
おれ、セリフのひどさと女性の描けなさ(その割りに女性を描こうとしたがる)で、黒沢清、頼むから脚本に女性使ってくんねーかなーって願ってたから、今回それが叶って、そして成果を上げてるんで、うれしかった。
あといくつかある笑えるシーンもよかったなー。笑った。
あの家は駒場あたりか。電柱に「神泉」て書いてあったり。
東大前商店街ってのも出て来た。
あとあのショッピングモールはいったいどこだ?気になる。
他、給食配ってるあたりがどこかとか(ホームレスん中に「JAMAICA」ってTシャツ着てる人がいて、おいおい「レゲエの人」ってあれか?ってちょっとおかしかったけど、あれ、わざとだよなー)、図書館は北区滝野川ってあったし、あの男の子がバスんところで捕まって、翌日釈放されると神奈川って見えて、横浜あたり?なんか観覧車見えるしとか、「トウキョウ」ってタイトルだけに、実際のロケ場所とかいちいち気になるのだった。
TANITAってまったくの実名で、しかも中国の大連に総務部が全部移ってリストラって、よくあれオーケーだよなー。
マイナスイメージじゃんなー。
TANITA、太っ腹。
好きなシーンもいくつかあった。
いままでの黒沢映画じゃ、おれ、そういうのなかったもん。
例えばピアノやってんの怒られて2階に上がった男の子が、ふいと降りてきて香川照之にキーボード投げつけるところ。
その不意打ち具合と、その子の感情の表出の的確さ(要は「あるある」ってやつ)、なんだかそんなのがよかったんだ。
おれにはそんなに胸に迫るとかそんな映画ではべつなかったけど、でもなんかきらいじゃない。今回。
平凡によく出来てて、いい意味で通俗で、おれの考える黒沢清だ。
そしてこんな風に書いてるってのは実は好きなのかも知れない。「トウキョウソナタ」
KYON2ていま、なに演っても、すべて素晴らしいと思う。
その顔が。まとうものが。
映画の出来そのものとは関係なく。
彼女が出て来るだけで。